液体中より物質を除去する方法として、浮上分離、沈殿、ろ過、吸着、化学反応、生物処理等、様々な方法があります。
沈殿は水よりも比重の軽い物質や溶解性物質は除去できないし、吸着は除去量に限界があるため高濃度物質の除去には不向きである等、
除去対象物質によって処理方法が変わってきます。
したがって、除去対象物質に応じて、適切な処理方法を選択する事が重要になってきます。
泡沫分離とは、様々な物質が気泡の気液界面に吸着する性質を利用し、気泡をフィルターとして液体中より目的物質を分離・除去する浮上分離の一種です。
気泡に物質を吸着させるため、粗大粒子や重い粒子の処理には不向きです。
また、水面に発生する安定泡沫を取り除く事で水中より目的物質を分離するため、発泡性のない液体には用いる事ができません。
しかし、コロイド粒子等の微粒子を目詰まりすることなく短時間に除去する事ができるため、
飼育海水中の水質汚濁原因物質でもある体表粘液等タンパク質の除去には、最も適した方法であると考えられます。
また、泡沫分離は気泡に物質が吸着・濃縮する性質を利用しているので、一種の濃縮装置とも考えられるため、
高濃度よりも中・低濃度物質の除去に向いています。
この泡沫分離講座では、泡沫分離の原理、特長、応用技術、最も利用されている魚介類飼育海水への適用など、泡沫分離に関する事柄を記述していく予定でいます。
安定泡沫は、吸着する目的物質によって色、量、安定度(安定泡沫が破裂して液体化するまでの時間)など、かなりの違いが見られます。 安定泡沫の色は、液中に分散している物質によって様々に変化します。
【浸透探傷液】 | 【水溶性切削液中の灯油】 |
【イカスミと体表粘液】 | 【残餌の海草と体表粘液】 |
界面活性剤を多く含んでいる液体は、安定泡沫発生量が多く、水分を多く含んだ泡沫になります。
【界面活性剤を多量に含んだ排水】 |
魚介類飼育水においては、負荷が低い場合はさらさらの泡(白色に近く、比較的短時間で破泡)が、 負荷が高い場合はねっとりした泡(茶色に近く、安定性が高い)が発生します。
【水族館】 | 【ブラックタイガー養殖】 |
また、自然界でも安定泡沫は発生しており、冬の岩礁地域で海が荒れるときに発生する波の華が代表的です。
【海面に浮かぶ安定泡沫】 | 【雑排水の河川流入口】 |
この様に、泡は一つ一つ個性があり、液体の性質によって違った側面を見せます。 泡沫分離装置が魚介類飼育水浄化以外ではほとんど実用化に至っていないのは、この泡の個性によるところが大きいのです。 泡沫分離技術を利用するのは難しいですが、油水分離等廃水処理や河川等環境水の浄化等、様々な分野で利用できる可能性を秘めた技術であると思っています。 次回は、泡沫分離の原理についてお話しする予定でいます。
【油水分離(鉱物油)】 | 【河川浄化(界面活性剤)】 |